日本ワイン・オチガビワイナリー訪問記

この9月から発酵料理士講座を開講される加盟校主宰者様よりご紹介いただき、北海道余市町で日本ワインに尽力を注ぐ「オチガビワイナリー」を訪問してきました。

日本ワインとは

起源も定かではないほど古いワインの歴史。8000年ほど前には古代ギリシャ人や西アジア系民族住んでいた黒海沿岸域で栽培されていた作物や羊からワイン、チーズ、ヨーグルトのような発酵食品が発生したと言われているようです。
日本のワイン造りは明治時代に山梨県で始まったと言われていますが、2018年から施行された「ワイン法」により、日本産ワインの基準が明確になりました。それにより、日本ワインと国内産ワインは別物となりました。

・日本ワインは、国産ブドウを100%使用してつくられているワイン
・国内産ワインは、輸入したブドウや濃縮果汁を使用して国内でつくられるワイン

また、特定の地域で育てたブドウを85%以上使用した場合はその産地をラベルに記載できるようになっています。
さて、そのワイン法ができる前はというと、いわばなんでもアリで何を信じてよいのやらの世界でした。
そのため、日本のワインの歴史は2018年からなのかもと思えてしまうほどです。

そんな環境の中で、「ワイン法」がつくられる40年以上も前から日本ワインを貫いてきている、落希一郎氏にお話をお聴きしました。

代表 落雅美氏と当主 落希一郎氏

落氏は、今回訪ねた北海道余市町の「オチガビワイナリー」の当主で(代表は奥様の“Gabi”雅美氏)、20代半ばで西ドイツの国立ワイン学校に学び、ウィーン郊外オーストリアの国立醸造所でも研修を受け帰国。1977年には持ち帰った40品種ものワイン用ブドウを北海道各地で育て研究し、1988年からは長野県北部に転身。1991年から2012年の足かけ22年間は新潟市の砂地にて、主にフランス・ボルドー地方の主力品種であるソーヴィニョン系のぶどう作りをしていましたが、温暖化が進む環境下において、2012年より北海道の余市町に転進し、日本一のワインを目指す「オチガビワイナリー」を拓いています。(HPより抜粋)

オチガビワイナリー外観(写真をクリックすると動画でご覧いただけます)

現在は、8ヘクタールほどのぶどう畑に12種のぶどう(アコロン、ピノ・ロワール、シャルドネ、カベルネなど)を育て、独自の製法で素晴らしい日本ワインを造られています。
地下は醸造所になっており、新樽・ビン熟成庫、タンク発酵室、瓶詰めをする製造ラインなどが整っています。
地上のレストランでは、ぶどう畑を見渡せる素晴らしいロケーションの中で美味しい料理とワインが楽しめます。
ランチのお供にシャルドネをいただいたのですが、余市テロワールとなったシャルドネはまろやかな酸味がとても滑らかに膨らみました。

見事なワインづくり

醸造所とぶどう畑は隣り合わせであることが原則とのこと。
しかも、原料とするぶどうはより美味しいものを 無理のない量だけというのが基本になっています。 完璧なる発酵容器といわれるモリブデン・ニオブ含有ステンレス製の冷却装置付き密閉タンクの使用は、現代のワインづくりでは必須アイテム。しかし、この発酵容器はよく日本酒製造等で使用される表面に樹脂塗料を塗った鉄製のタンクとでは価格に雲泥の差があるそうです。

7月のシャルドネ
モリブデン・ニオブ含有ステンレス製タンク

食べるぶどうに比べてとても高い糖度の過熟果汁の中のブドウ糖成分だけが酵母の助力によりアルコールに転化します。これが発酵です。
9~10月に収穫し、その日のうちに撰果し、潰して、一晩果皮を潤かし、翌朝搾ります。
そして密閉タンク内で酵母を加えます。(赤ワインの場合、搾らずに酵母添加を行う)タンク表面を地下水(13~14℃)で冷やしながら、タンク内温度は21℃程度に抑え、1ヶ月~1ヶ月半かけてゆっくり発酵を完了させます。その後、ワインの中に浮遊している雑分を沈殿させるべく、卵の白味のメレンゲや植物性ゼラチンを加え攪拌します。
以上ですが、果実を潰す時と雑分沈殿物除去の時に酸化防止剤として亜硫酸塩を50ppm(リットル当たり0.05g)使用します。これを怠るとワインがオレンジ色に変色し、日持ちのしない腐敗し易い異臭のするワインになってしまいます。

新樽(フランス製オーク樽)・ビン熟成庫

地域に根ざす

オチガビワイナリーは、「地方創生」が謳われる前から地元やぶどう栽培と真摯に取り組んできているからこそ、新たな雇用を生み、他の畑のブドウを使用したワインも造り、自律的で持続可能な社会を見事に創り上げてきています。

今後

近代の食品加工産業では急速に増えてきた人口を支えるために広く安定供給する必要性から様々な素晴らしい技術が生まれてきましたが、その反面、利益重視の大量生産〜大量販売の手法を編み出すのも人間。その影響で大量生産は適わずとも栄養たっぷりの日本伝統の味がどんどん失われています。
その味や技術を残していくためには、消費者の選択眼(数多の眉唾情報の中から納得できる情報をキャッチする感覚)が必要です。

そのためにも、先ずは見聞きでき、味わい、肌で感じられる場所に行ってみることをオススメします。
これからの時代は、一層地域密着型が求められてくるのではないでしょうか。

当協会では、受講生の皆さまに役立つ情報はもちろん、今後は体験の場の提供も予定しておりますので、どうぞお楽しみに。

<取  材> 松丸誠
<取材協力> 株式会社OcciGabi Winery
       https://www.occigabi.net/
       北海道余市郡余市町山田町635