発酵料理士協会のYouTubeチャンネル『食の礎』の撮影で、福井県小浜市にある「株式会社とば屋酢店」へ行ってきました。
今回は、代表取締役の中野貴之様へのインタビューとともに、同店の魅力をご紹介します。


とば屋酢店は、福井県小浜市にある創業300年以上の歴史を持つ老舗の酢醸造元です。1710年の創業以来、伝統的な「壺仕込み製法」を守り続け、じっくりと発酵・熟成させることで、まろやかな酸味と豊かな旨みを持つ米酢を生み出しています。
原料選びから製造工程までこだわり抜かれたお酢は、素材の味を引き立てる上品な味わいが特徴です。純米酢をはじめ、すし酢やぽん酢など幅広い商品を展開し、家庭の食卓はもちろん、プロの料理人からも高い評価を得ています。長い歴史の中で培われた技術と品質へのこだわりを受け継ぎながら、今もなお本物の味を追求し続けています。

江戸時代から300年以上続く歴史の中で、時代が変わっても「これだけは絶対に変えない」と守り続けている信念や価値観は何でしょうか?
「種酢を絶やさない」。これが、十三代続いた答えです。
私どもの蔵には、創業以来継ぎ足してきた壺の種酢があります。米と水を仕込んでも、それを酢に変えてくれるのは、壺に棲み着いた酢酸菌をはじめとする微生物のコミュニティです。これを途絶えさせれば、とば屋の酢は、もうとば屋の酢ではなくなる。300年という歴史は、設備や建物の話ではなく、この微生物の系譜を切らさず受け継いできた時間のことだと考えています。
もう一つ、創業以来の理念があります。食酢造りを通じて、ここで働く一人ひとりが、その能力と品性を磨き、地域社会に報い、人々の健康に寄与することです。
そしてもう一つ、お酢そのものについての考え方があります。酢は黒子。自身が前に出るのではなく、食材の持ち味を引き立てて、はじめて本当の役目を果たす。300年、私どもが目指してきたのは、そういう酢造りです。
小浜の豊かな水と米。この土地の素材でお酢を造り続けることは、とば屋さんの「味」にどのような影響を与えているとお考えですか?
味の主役は、私ども作り手ではなく、この土地そのものです。
小浜は古来「御食国(みけつくに)」と呼ばれ、若狭の清冽な水と良質な米に恵まれた地です。同じ作り方をしても、この水と米でなければ、壺に棲む微生物相が同じ顔ぶれになりません。蔵ごと、壺ごとに、その場でしか成立しない発酵生態系が育つ。この事実は近年の解析でも、私どもの壺が他に類を見ない独自の組成を持っていることから少しずつ明らかになってきています。
水・米・空気・蔵という場。そのすべてが、壺の中の生き物たちを選び、育てている。ワインの世界では「テロワール」という言葉がありますが、お酢にも確かにそれは存在します。とば屋の味は、小浜という土地が決めているのだと、私は理解しています。
効率化が進む現代において、あえて手間のかかる「壺仕込み・静置発酵」を貫く理由と、その歳月が醸し出す「まろやかさ」や「コク」の正体について教えてください。
結論から申し上げると、速くは作れないものが、世の中には確かにあります。
工業的な速醸法は、タンクに空気を送り込み撹拌することで、酢酸発酵をわずか1〜2日で終わらせます。一方、私どもの静置発酵は、壺の表面に酢酸菌の膜を張らせ、ゆっくりと酒を酸に変えていく方法です。
何が違うのか。一口で言えば、酢酸菌一種類の働きだけでは、この味は決して出てこないということです。壺の中では、米と水と空気と時間が、目に見えない無数の働きを重ね、私ども作り手が完全には掌握しきれないほど複雑な味わいを、少しずつ織り上げていきます。「まろやかさ」や「コク」と私どもが感覚で呼んできたものの正体は、いまだ全貌が解明されていない発酵の機微の総体ではないかと実感しています。
職人の感覚と、まだ言葉になっていない自然の働き。その両方に支えられて、300年続いてきたのだと思います。
伝統を守る一方で、現代の食卓に合わせて「新しく変えてきたこと」や、次世代へ繋ぐために挑戦していることはありますか?
伝統とは、棚に飾る器ではなく、手をかけて育てる生きもののようなもの。発酵という仕事に身を置いてきたからこそ、私はそう感じています。
たとえば、昨年から商品として育てているのが「にごり酢」です。壺仕込みの酢を濾しきらず、酢酸菌を含んだまま瓶詰めした商品です。先に東京や海外の料理人・シェフから評価をいただき、そこから一般のご家庭へと逆向きに広がっていくという、少し珍しい育ち方をしています。
また、お酢を仕込んだあとの壺から取れる「酢の粕」を、味噌のような旨みの塊として注目し、わさびや柚子こしょうのように肉や揚げ物へ添える「発酵ペースト」として提案する取り組みも進めています。
研究面でも、大学との連携を通じて、まだ知られていないお酢の良さ《とりわけ、私どもの発酵でなければ生み出せない味わいや機能性》を一つひとつ明らかにし、皆さまへ新しい価値としてお届けできないかと考えています。
新しさは、壺と種酢という核心を未来へ運んでいくための手段。守るために、動き続ける。それが、いまの私の仕事だと思っています。
初めて「とば屋酢店さん」の伝統に触れる方へ。まずはこれから使ってみてほしいという「最初の一本」と、そのお酢の力を最大限に活かすおすすめの料理を教えてください。
迷わず「壺之酢(つぼのす)」をおすすめします。
まずは、普段使いのお酢として気軽にお使いください。
最も力が出るのは、寿司飯です。米と、米から生まれたお酢。ご飯との一体感が、ふつうの米酢とはまったく違います。次に、魚をしめたり、酢の物を作ったりする際の三杯酢としても最適です。
また、お水や炭酸で5〜6倍に割って「飲む酢」にするのもおすすめです。お好みで蜂蜜やシロップなどを加えると、より美味しくいただけます。


商品の購入などにつきましては「とば屋酢店」公式ホームページをご覧ください。
【店舗情報】
運営: 株式会社とば屋酢店
住所: 福井県小浜市東市場34号6-2
TEL: 0770-56-1514
FAX: 0770-56-2275
公式ホームページ: https://www.tobaya.com/
発酵料理士協会